先日、ちょっと年配の方と食事中に、「ちょっと、しょっぱいですね」と言ったところ、「京都やのに“しょっぱい”を使うのは珍しぃな」と言われてしまいました。
それで初めて、「しょっぱい」が京都や関西ではあまり使わないということを知ったのですが、そんな驚きの後に残ったのが、“ところで、「しょっぱい」ってどこの言葉?”という疑問です。
ということで、本日は「しょっぱい」がどの地域の方言なのかを調べてきました。地域というより日本を二分することが分かって面白かったですよ。
また、最近は、“塩味がきつい”という意味以外でも「しょっぱい」が使われるようになっていますね。元々の意味から、最近増えた新たな意味についてもお伝えしますね!
「しょっぱい」はどの地域の方言?
「しょっぱい」は、食べ物が“塩辛い”ということですが、地域というよりも東日本全般で使われている方言でした。
対する西日本では、“塩辛い”ときも、塩味以外の辛みにも、単に「からい」を使います。
では、「しょっぱい」と「からい」の境界はどこにあるのかですが、日本国語辞典と大辞林の記載をご紹介しましょう。
ショッパイ類は新潟県の親不知と静岡県の浜名湖を結ぶ線よりも東に広く分布し<略>
引用元:日本国語辞典
新潟(佐渡を除く)・長野・静岡の各県以東はショッパイ、富山(佐渡を含む)岐阜・愛知の各県以西はカライ<略>
引用元:大辞林
大辞林のほうが詳しく記載されていますが、共通しているのは新潟県と静岡県という2つの県名。つまり、新潟県と静岡県を結んだラインがおおよその境界線ということが見えてきました。
地理的に、新潟県の親不知・子不知は旅人の歩行が困難な難所であり、長野には高くそびえる南アルプスが人の往来の障害となったことが、言葉の上でも壁になったのでしょう。ある言葉が、西日本と東日本と二分して分布していることは、調査をするとよく見られる現象です。
「しょっぱい」「からい」の他に、どんな東・西日本で分かれている言葉があるのかというと・・・
東日本 | 西日本 |
やのあさって | しあさって |
カタツムリ | デンデンムシ |
片付ける | 直す |
入梅 | 梅雨 |
※国立国語研究所(南雅彦さん)方言調査3から抜粋
あまり良い例ではないですが、東日本の「ばか」と西日本の「あほ」も同じ意味を持つ言葉でも見事に分布が分かれている言葉として有名ですよね。
再び話を「しょっぱい」に戻すと、”塩からい”とは違う意味で「しょっぱい」が使われている地域があります。
- 塩からくない「しょっぱい」が使われている地域
- 北海道⇒ケチで融通が利かない
- 神奈川県高座郡⇒苦々しい
- 新潟県新井市⇒汚れている、汚い
- 新潟県佐渡⇒苦しい
うーん、正に方言ですね。今ご紹介した地域で、「しょっぱい」と聞いて”塩からい”ことだと思っていたら会話がおかしな方向に行きそうですね(笑)。
では、地域の話から離れて、「からい」の変遷を少し見ていきましょう!
「からい」って元々はどんな味?
ちょっと料理の話になりますが、和食は世界の中でも香辛料をあまり使わない料理です。旨み成分を引き出したダシに少しの塩分を加えるといった素材の味をいかした料理方法が主流ですよね。
そうした調理方法もあって、万葉の昔から、「からい」とは、“塩味がきつい”ということを意味していたのです。ちょっと時代が進むと、“酸味がきつい”というときにも「からい」が使われるようになります。
やがて、社会も料理もどんどん発展して、わさびや辛子といったツンとした刺激のある調味料が登場すると、それも「からい」で、くくられるようになります。
考えてみたら、唐辛子が入ってきたのは(早い説で)16世紀です。今、唐辛子に代表されるスパイシーなものも「からい(辛い)」と言いますが、味の上では新参者だったのですね。
ただ、結局、これだけ多種多彩な味をひとくくりに「からい」とするのは、ちょっと無理が出てきますよね。そこで生まれたのが、塩による辛さを表現する「塩からい」です。
先ほど東日本と西日本で分かれる言葉を引用させていただいた国立国語研究所の方言調査によると、まず「塩からい」が関西で生まれ西日本全体に広く使われるようになり、「しょっぱい」は江戸時代の後半に東日本で使われるようになったことが分かっています。
「からい」、一つとっても、歴史があって面白いですね!ですが、「しょっぱい」は、さらに変化の途中です。
続いて、「しょっぱい」の意味と最近の変化について詳しく見ていきましょう。
「しょっぱい」の意味
「しょっぱい」は、もともとは“塩味がきつい”を意味した言葉ですが、最近は人の態度や行動に対しても「しょっぱい」が使われるようになっています。
まずは、「しょっぱい」の意味を辞書から確認してみようと思います。
辞書を引くと・・・
さらに、デジタル大辞泉から「しょっぱい」の意味を引用してみますね。

- 塩味が濃い。塩辛い。「-・い漬物」
- 勘定高い。けちである。「―・いおやじ」
- 困惑や嫌悪で顔をしかめるさま。「-・い顔をする」
- 声がしわがれている。声がかれ、かすれている。「-・い声を張り上げる」
- 見劣りがする。つまらない出来である。もとは相撲で弱いことをいった語。「-・い試合」「-・い仕上がり」
引用元:デジタル大辞泉
見比べると5番目の意味が増えていることが、はっきりと分かりますね!
大辞泉にもあるように、5番目の意味は大相撲で隠語として使われていたものです。相撲に負けると塩がまかれた土俵に這うことになるため、弱いことを「しょっぱい」と言っていました。
その相撲の隠語が、さらに色々な場面で使われるようになったのです。
広がる「しょっぱい」の新たな使われ方
大相撲で使われていた隠語としての「しょっぱい」が、相撲の世界以外で初めて使われたのはプロレス。その次がプロボクシングです。
プロレスに「しょっぱい」を伝えた(?)のは、大相撲からプロレスに世界に飛び込んだ、かの有名な力道山です。相撲では“弱い”という意味しかありませんでしたが、プロレスやボクシングでは、“見劣りがする”“つまらない”といった意味で使われるようになりました。
さらにさらに、21世紀に入ると、芸能界でも使われるようになり、意味もさらに拡大して“冷たくて愛想のない”ことを「しょっぱい」と表現するようになっています。(さすがに大辞泉もここまでは載せていませんね)
冷たくあしらわれた外交の対応を評してマスコミが「しょっぱい」を使うケースも出てきていますので、やがて“冷たい”、“愛想が無い”も「しょっぱい」の意味に追加されるかもしれませんね。
まとめ
“塩味がきつい”ことを意味する「しょっぱい」は、静岡県を境とした東日本で使われる方言でした。
東日本では、塩辛いことを「しょっぱい」、塩味以外の辛さを「からい」と使い分けます。
対する西日本では、塩辛いことも塩味以外の辛さも「からい」とひとくくりにして表現します。
また、本来は“塩味がきつい”ことを意味していた「しょっぱい」ですが、最近は“冷たい”“愛想が無い”といった人の態度や行動に対しても使われるようになっています。
むやみやたらに愛想を振りまく必要はないとは思いますが、「しょっぱい」人と思われないよう、人には温かく丁寧に向き合わないといけませんね(笑)。
【参考図書】
大辞林第3版(三省堂)
日本国語大辞典第2版(小学館)