同じ物であっても、品質や性能・能力などが幅広いことを『ピンからキリまである』と表現します。
私もかなりの頻度で使っていますが、『ピン』と『キリ』のどちらが上になるのか知らないことに、はたと気づきました。
考えてみると、『ピンからキリまで』はセットで使うことがあっても、何かの品質の良しあしを説明するときに、“あれはピンです”とか“キリだと思うよ”と言うような使い方もしません。
それもあって、どっちが上になるのか知らなくても、問題なく使える言葉なのですよね。
ですが、知らないことは調べるに限ります!そこで本日は、『ピンからキリまで』について、まずはどっちが上になるのか、いつごろから使われだしたのかといった由来や語源についてお届けしますね。ちょっとした
『ピン』『キリ』、どっちが上?!
『ピン』と『キリ』では、どちらが上を意味するかですが、大辞泉にきちんと載っていましたので、そちらを引用したご紹介しましょう。
ピン
《〈ポルトガル〉pinta(点の意)から》- カルタ・さいの目などの一の数。
- 第一番。最上等のもの。 ⇔ キリ
キリ
《〈ポルトガル〉cruz(十字架)から》- 10の意。
- 最後。また、最低のもの。「ピンからキリまで」⇔ピン
- 天正カルタ4種48枚のうち、各種の12枚目。
辞書の意味から、
ということが、はっきりしちゃいましたが、皆さんが想像されていた方と同じでしたか??
それよりも私が驚いたのは、語源がポルトガル語ということです。どうりで、『ピン』も『キリ』もカタカナなわけです。
ですが、さらに調べてみると、『ピン』についてはポルトガル語の「pinta(ピンタ)」が語源ということで落ち着いているようですが、『キリ』の語源については有力な2つの説があり、どちらが語源となったのか、はっきりしていません。
では、続けて、語源について詳しく見ていきましょう。かるた(トランプ)の歴史も関係していて、興味深いですよ!
『ピン』と『キリ』の語源
先ほど、大辞泉の意味をご紹介したときに、“かるた”という言葉が共通して出てきたいたことにお気づきでしょうか。
もう一つ共通して出てきていたのが、“ポルトガル”でしたね。これは、『ピン』も『キリ』も16世紀の後半にポルトガルから伝わった“南蛮かるた”から生まれた言葉だからなのです。
“かるた”と聞くと、「犬も歩けば棒に当たるー」(古い?)とか、百人一首を思い浮かべますが、“南蛮かるた”は、現在のトランプに近いものです。トランプは1から13までの札が4組ありますが、南蛮かるたも1から12までの札が4組あり、現在のトランプに近いものでした。
南蛮カルタは、伝わるや否や大流行し、国産の天正カルタも作られるようになりました。また、その賭博性から、戦国大名はたびたび禁止令を出すほどのものでした。
天正カルタの1の札を『ピン』、最後の12の札を『キリ』と呼んでいたものが、江戸時代に入って『ピンからキリまで』という慣用句として使われるようになったのです。
ちなみに、『ピンキリ』と略されるようになったのは、昭和後期に入ってから。言われてみれば、昭和後期は、色んな略語が使われだした時期ですので、“なるほどな”と納得してしまいました。(略語文化は平成に入って、さらに発展していますしね(笑))
『ピン』はサイコロの“1の目”
あらためて紹介しますと、『ピン』は、ポルトガル語の「pinta(ピンタ:点・斑点)」が語源です。
サイコロを思い浮かべていただくと良く分かるのですが、“1の目”は点が一つですよね。それが転じて、サイコロだけでなく、天正カルタの“1の札”をも『ピン』と呼ぶようになったのです。
また、当時は、“1の目”は最小で最弱。つまり『ピン』も最初であり価値としては最低ということを意味していました。現在とは、正反対ですよね。
江戸時代に『ピンからキリまで』と慣用句として使われるようになった頃に、意味が逆転して、『ピン』が最初かつ価値が高いと変わったと言われています。
『キリ』は十字架?
対する『キリ』ですが、天正カルタで“12”の札が『キリ』と呼ばれており、江戸時代に意味が逆転するまでは、最後で最高の価値という意味でした。
では、『キリ』がどこから来たのか、何を語源しているのかですが、次の2つのどちらかではないかと言われています。
- 日本語で区切りを意味する「きり(切り・限り)」が語源
- ポルトガル語で十字架をさす「cruz」が語源
“切り”が最後を意味し、天正カルタの12の札を『キリ』と呼ぶようになったと言われています。
十字架が数値の10を指していて、10という数値に終わりという意味があるからと言われています。
「cruz」説に対しては、12枚あるカルタに対して10を意味する言葉を使うのは違和感があるという意見もありますが、大辞林も我が家にある年代物の広辞苑(第2版)も「cruz」説をとっています。広辞苑に至っては、「cruz」が訛って『キリ』になったとまで掲載されていました(笑)。
私としては、「cruz(十字架)」は、イエス・キリストの最後を連想するものですから、“10”を意味しているのではなく、最後を意味しているのではないかと思います。
一方で、気になるのは、「切り札」という言葉です。手持ちの最強の札という意味があり、これもトランプゲームから生まれたものですね。漢字で書いていますが、『キリ』札だったのではないかという気がします。
そうなると語源は、ポルトガル語の「十字架(cruz))ではなく、日本語の「切り」の方ということになりますが、どちらもそれなりにモットモらしいだけに、なんとも悩ましいところです。
いずれにしても天正カルタで最後・最強の札12が『キリ』と呼んでいたから『ピンからキリまで』が生まれたことは間違いありませんね!
あらためて『ピンからキリまで』の意味
では、最後に『ピンからキリまで』の意味をあらためて押さえておきましょう。
ピンからキリまで
- 初めから終わりまで。
- 最上等のものから最下等のものまで。
広辞苑第2版から
使うときは
というように、物事や品質・能力などの優劣に幅があることを言いたい時に使います。
とても、よく使う慣用句ですよね。
『ピン』は、もともとサイコロの“1の目”から転じたこともあり、今も“1”を意味する言葉として使われています。
漫才コンビなどに対して、1人の芸人さんのことはピン芸人。
“1割をかすめ取る”という意味から生まれたのがピンはね(あまり良くない言葉ですね)。
まとめ
初めから終わりまで、最上等から最下等のものまでという意味がある『ピンからキリまで』は、16世紀にポルトガルから伝わった“かるた”から生まれた言葉です。
『ピン』が価値の高い方を指し、『キリ』が価値の低い方を指しています。
“かるた”といっても、現在のトランプゲームに近く、1から12まで4組の札があり、1の札をピン、12の札をキリと呼んでいました。『ピンからキリまである』という慣用句が生まれたのは江戸時代のことです。
江戸時代までは、『ピン』が“1”で最小かつ最弱(最も価値が無い)で『キリ』は“12”で最大かつ最強(最も価値がある)を意味していました。つまり、現在と江戸時代では全く逆だったのです!
『ピン』の語源は、ポルトガル語の「pinta(ピンタ:点・斑点)」ですが、『キリ』の語源は同じくポルトガル語の「cruz(クルス:十字架)」が語源という説と、日本語の「切り・限り」を語源とする説が有力ですが現在も特定はされていません。
ちなみに『ピンキリ』と略されるようになったのは、昭和の後期に入ってから。
略した言葉は便利ですが、あまり使いすぎて、ボキャブラリーが『キリ』にならないよう気を付けないといけませんね(笑)。